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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)10099号 判決

東京都台東区東上野三丁目二〇番三号

原告

株式会社エース電研

右代表者代表取締役

武本孝俊

右訴訟代理人弁護士

小坂志磨夫

右同

小池豊

右両名輔佐人弁理士

柏原健次

大阪市淀川区西中島四丁目四番一一号

被告

ジヤパツクス株式会社

右代表者代表取締役

高田和彦

右訴訟代理人弁護士

岡田春夫

右輔佐人弁理士

北村修

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、別紙物件目録記載の薄形玉貸機を製造し、販売し、貸し渡し、販売または貸渡のために展示してはならない。

二  被告は、前項の薄形玉貸機を廃棄せよ。

第二  事案の概要

一  前提事実

1  原告の権利

原告は、左記の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件発明」という。)を有する(争いがない。但し、出願日の繰り下がりについては後記判示のとおり。)。

(一) 発明の名称 遊技場における薄形玉貸機

(二) 出願日 昭和五一年六月三〇日(特願昭五一-七七三五八)

(三) 出願公告日 昭和六一年九月一二日(特公昭六一-四一〇三六)

(四) 登録日 昭和六二年八月一一日

(五) 特許番号 第一三九二六八二号

(六) 特許請求の範囲

「1 複数台のパチンコ台を並べて配置した遊技場におけるパチンコ台間に配置される金銭の投入に応じて貸玉を放出する薄形玉貸機において、

縦状の紙幣と硬貨の挿入口を設け、該両挿入口に連通する取り込み通路を別々に設け、

該両取り込み通路の適宜の箇所に少くとも紙幣と硬貨の検定部を設け、

前記両取り込み通路および検定部等でトラブルが発生したときに、外部に表示するトラブル表示部を別々に設けたことを特徴とする遊技場における薄形玉貸機」(別添特許公報〔以下「公報」という。〕参照)

2  原告の出願及び補正

原告は、昭和五一年六月三〇日、本件特許出願をした。右出願当時の明細書及びこれに添付された図面(以下「原明細書」及び「原図面」という。)に記載された事項は、別紙原明細書記載のとおりである(乙一〇)。

右出願に対して、昭和六〇年九月三日付で拒絶査定がなされた(乙一一、弁論の全趣旨)。

原告は、同年一一月一八日、右拒絶査定に対する審判を請求するとともに、同日付の手続補正書(以下「補正明細書」という。)を提出して原明細書及び原図面を補正(以下「本件補正」という。)した。本件補正の概要は、発明の名称を「自動交換装置」から「遊技場における薄形玉貸機」に変更したほか、原明細書の特許請求の範囲を含めた全文を訂正したこと、原図面にあつた第1図、第2図、第4図及び第5図を削除し、同第3図を一部補正して第1図とし、原図面になかつた第2図及び第3図を付加したことであり、その内容は公報に記載されているとおりである(甲二、乙一〇、一一、弁論の全趣旨)。

本件発明は、本件補正後、出願公告(昭和六一年九月一二日)、設定登録(昭和六二年八月一一日)されたものであり、本件補正は、特許法四〇条にいう「願書に添付した明細書又は図面について出願公告をすべき旨の決定の謄本送達前にした補正」に該当する。

3  本件発明の構成要件

補正明細書の特許請求の範囲の記載によれば、本件発明の構成要件は、次のとおり分説するのが相当である。

(一) 複数台のパチンコ台を並べて配置した遊技場におけるパチンコ台間に配置される金銭の投入に応じて貸玉を放出する薄形玉貸機において、

(二) 縦状の紙幣と硬貨の挿入口を設け、該両挿入口に連通する取り込み通路を別々に設け、

(三) 該両取り込み通路の適宜の箇所に少くとも紙幣と硬貨の検定部を設け、

(四) 前記両取り込み通路および検定部等でトラブルが発生したときに、外部に表示するトラブル表示部を別々に設けたことを特徴とする、

(五) 遊技場における薄形玉貸機

4  本件発明の作用効果

補正明細書の発明の詳細な説明欄の記載によれば、本件発明は、右の構成要件からなることにより、次の作用効果を奏するものと認められる(甲二、乙一一)。

(一) 複数台のパチンコ台を並べて配置した遊技場におけるパチンコ台間に配置される金銭の投入に応じて貸玉を放出する薄形玉貸機において、縦状の紙幣と硬貨の捜入口を設けた(構成要件(一)、(二))ので、遊技客は、パチンコ台の前に座つたままで玉を交換でき、射幸心を損われることなく、遊技をそのまま継続できる。

(二) 右玉貸機に縦状の紙幣挿入口を設け(構成要件(三))、幅の広い紙幣を縦に挿入するようにしたので、玉貸機を薄形にできる。

(三) 前記両取り込み通路および検定部等でトラブルが発生したときに、外部に表示するトラブル表示部を別々に設け(構成要件(四))、硬貨用と紙幣用のトラブル表示部を設けたので、トラブル発生原因の解明が早くつき、トラブル修復を迅速に行うことができる。

5  原告の本件発明実施行為

原告は、昭和六〇年七月から本件発明の構成要件を全て充足した薄形玉貸機を製造し、遅くとも昭和六〇年九月にはこれを「キングサンドイツチⅢ」なる商品名で市場に出していた(乙一四、一九、二〇、弁論の全趣旨)。

6  被告の製造販売行為

被告は、業として、別紙物件目録記載の薄形玉貸機(以下「イ号物件」という。)を製造販売ないしは貸し渡し、販売または貸渡のために展示している(争いがない)。

7  イ号物件の構成

イ号物件の構成は、次のとおり分説するのが相当である(以下のイ号物件についての番号及び符号は、別紙物件目録記載のものを指す。)。

(一) 複数台のパチンコ台を並べて配置した遊技場におけるパチンコ台間に配置される金銭の投入に応じて貸玉を放出する薄形玉貸機1において、

(二) 縦状の紙幣(一〇〇〇円)と硬貨(一〇〇円・五〇〇円)の挿入口4、5を設け、該両挿入口に連通する取り込み通路(4につき20、5につき12、14、15)を別々に設け、

(三) 該両取り込み通路の途中に紙幣と硬貨の検定部を設け、

(四)(1) 前記両取り込み通路および両検定部等の何れかでトラブル(紙幣または硬貨の詰り等)が発生した時点で、点滅または消灯をもつて、機械内部でのトラブル発生だけを外部に表示する三点ランプ2(点灯中・貸出表示)と、

(2) トラブル発生後に側面下端の最奥部に設けられたトラブル箇所確認スイツチ25が押されたときに、七本一組の日の字形に配置されたセグメント(〈1〉~〈7〉)のうち、特定のセグメントを点灯させて、点灯する特定のセグメントの組合せ形状によつて表示される「1~8・c・d・E」の数字または文字をもつて各種トラブルの内容を表示するセグメント表示部8を設け、

(3) 紙幣または硬貨が投入され、貨玉金額または両替が選択されたとき、預り金額の残高(貸玉または金銭の払出し後の残数)を、前記セグメント表示部8のセグメント(〈1〉~〈7〉)のうち、点灯する特定のセグメントの組合せ形状によつて表示される「O・A・9~1・0」の文字または数字をもつて減算的にカウント表示するべく構成してあることを特徴とする、

(五) 遊技場における薄形玉貸機

8  本件発明とイ号物件との対比及びイ号物件の作用効果

イ号物件は、右構成を有することにより、右構成(一)ないし(三)及び(五)に対応する本件発明の構成要件(一)ないし(三)及び(五)を充足し、本件発明の作用効果(一)、(二)と同様の作用効果(遊技客が席を立たずに玉貸し可能、玉貸機の薄形化)を奏するものと認められる(弁論の全趣旨)。

二  争点

本件の主な争点は、(1) 本件補正が特許法四〇条にいう要旨変更に当たるか否か、(2) イ号物件が本件発明の構成要件(四)を充足するか否かであり、右争点に関する当事者の主張は次のとおりである。

1  被告の主張

(一) 要旨変更(本件発明の出願日繰下げ)

本件補正は、原明細書では紙幣に対する鑑別機能を持たない「検定部」に鑑別機能を付加した点、及び原明細書にはなかつた「トラブル表示部」を設けた点で、原明細書の要旨を変更するものであり、本件発明の出願日は補正明細書の提出日(昭和六〇年一一月一八日)とみなされる。

(二) 本件特許の無効事由(技術的範囲の限定解釈)

しかるに、原告は出願日とみなされる昭和六〇年一一月一八日以前に既に本件発明の実施品である「キングサンドイツチⅢ」を公然と製造、販売していたから、本件特許は無効事由(出願前公然実施)を有する。

従つて、本件発明の構成要件とイ号物件の構成とを対比するに際して、本件発明の技術的範囲の解釈は、補正明細書及びその図面に記載された構成の限度において厳密になされなければならない。そうすると、後記(三)のとおり、イ号物件が本件発明の構成要件(四)を充足しないことは明らかである。

(三) 本件発明の構成要件(四)とイ号物件の構成(四)との対比

補正明細書の発明の詳細な説明欄には、実施例について「トラブルが発生した際に外部に表示するトラブル表示部10、11」との記載(公報3欄7~8行)及び「前記した硬貨取り込み返却関係部門でトラブルが応じたときは、トラブル表示部10が点灯して硬貨部門においてトラブルが発生したことを外部に知らせる。又紙幣取り込み返却関係部門でトラブルが発生したときは、トラブル表示部11が点灯して紙幣部門においてトラブルが発生したことを外部に知らせる。」との記載(公報4欄6~12行。但し、「応じた」は「生じた」の誤記と考えられる。)があることからすると、本件発明の構成要件(四)の「トラブルが発生したときに、外部に表示するトラブル表示部」とは、「トラブルが発生した時点に、トラブル発生と同時にトラブル発生部門を外部に表示するトラブル表示部」との意味に解すべきである。これに対し、イ号物件の構成(四)の「セグメント表示部8」は、トラブルが発生すると、トラブルが発生したことが状態として装置内に保持され、トラブル箇所確認スイツチ25を押すまで硬貨と紙幣の何れのトラブルかを知ることができないから、トラブルの発生を発生と同時にその発生部門を外部に表示する構成になつていない点において、本件発明の構成要件(四)を充足しない。

また、補正明細書の発明の詳細な説明欄には、実施例について「硬貨と紙幣の取り込み中および検定中にトラブルが発生した際に外部に表示するトラブル表示部10、11が、硬貨用101、102・・・と紙幣用111、112・・・に分けて設けられている。」との記載(公報3欄6~10行)及び前記公報4欄6~12行の記載、並びに実施例図(公報の図面)第1図には、「10」で示される部分と「11」で示される部分とが、互に独立して別々の箇所に示され、図面の簡単な説明欄には、図面中の「10」が硬貨用トラブル表示部としての「硬貨用トラブル表示灯」であり、「11」が紙幣用トラブル表示部としての「紙幣用トラブル表示灯」であるとの旨の記載(公報4欄38~40行)があることからすると、本件発明の構成要件(四)の「トラブル表示部を別々に設けた」とは、「硬貨用トラブル表示部と紙幣用トラブル表示部とを別箇所に別個に設ける」との意味に解すべきである。これに対し、イ号物件における硬貨と紙幣の両トラブル表示は、一箇所に設けられた七本一組のセグメントからなるセグメント表示部8という単一表示部内に、日の字状に配置された各セグメントの選択的な点灯の仕方の組合せによる図形の変化で、ある時は硬貨の、ある時は紙幣のトラブルを表示するにすぎないから、硬貨用トラブル表示部と紙幣用トラブル表示部とが別箇所に別個に設けられていない点においても、本件発明の構成要件(四)を充足しない。

このように、イ号物件は、本件発明の構成要件(四)を欠くことにより、硬貨と紙幣のトラブル発生を、発生と同時に薄形玉貸機外から発見できず、トラブル表示部たるセグメント表示部自体によつて、右トラブル発生と同時に硬貨と紙幣の何れのトラブルかを直ちに読取れないから、本件発明の作用効果(三)と同様の作用効果(トラブル発生原因の早期解明・トラブルの迅速な修復)を奏さない。

2  原告の主張

(一) 要旨変更について

本件補正は、要旨変更に当たらない。原明細書に記載されている自動玉貸機内の(紙幣の)検定部が、それ自体としては鑑別機能を有するものでなかつたことは被告の指摘するとおりである。しかしながら、補正明細書に記載されている紙幣の検定部はもつぱら真贋判断のための紙幣の情報(データ)を収集する部門であり、鑑別機能を有するものではない。すなわち、補正明細書において、検定部は、貨幣(紙幣と硬貨、以下同じ。)の両取り込み通路に設置され(公報1欄7~8行)、かつトラブル発生箇所として特に例示列挙され(同欄9~11行)、検定部自身が紙幣詰り、硬貨詰りの代表的な発生箇所とされている点からみるならば、取り込み通路への設置と、そこにおける貨幣との接触を要しない鑑別部が、補正明細書における検定部に取り込まれているとは到底解し得ない。また、本件補正による本件発明の特徴は、紙幣の挿入口を縦状にしたことをもつて、硬貨用の台間薄形玉貸機と同様な薄形の紙幣、硬貨両用の台間玉貸機を初めて提供したこと、その際、紙幣取込返却関係部門と硬貨取込返却関係部門の両方でのトラブル対策としてどちらのトラブルかを外部に別々に表示したことにある(公報4欄20~27行)。右にいうトラブルとは貨幣の取込過程におけるもの、なかんずく「検定部で発生しやすいトラブル」であつて、鑑別部門はトラブルとは無縁であるから、補正明細書の「検定部」に貨幣の真贋についての最終判定(鑑別)機能を必須としなければならない理由はない。

トラブル表示部についても、本件補正が要旨変更に当たるとする理由はない。

(二) 本件発明の構成要件(四)とイ号物件の構成(四)との対比について

本件発明におけるトラブル表示部は、そもそも何れの箇所でのトラブルであるかを店員が知り、発生原因の解明とその修復を迅速に行うために設けられたもの、すなわち、店員にトラブルの発生箇所を知らせるための装置である(公報4欄24~26行参照)。従つて、本件発明の構成要件(四)の「トラブルが発生したとき」とは、「トラブル発生の時点」あるいは「トラブル発生と同時」と解すべき理由はない。イ号物件においては、セグメント表示部8によりトラブル内容(種類、原因)が表示されるに先立つて、三点ランプ2の点滅または消灯をもつてトラブルの発生を知つた店員が当該パチンコ台に至り、トラブル箇所確認スイツチ25を押すことが必要であるが、セグメント表示部8はトラブル発生がなければ点灯しないのであるから、三点ランプ2及びトラブル箇所確認スイツチ25の存在は、イ号物件が本件発明の構成要件(四)の「トラブルが発生したときに、外部に表示するトラブル表示部」との要件を充足することにつき何等の影響も及ぼさない。

また、補正明細書の実施例においては、実施例図(公報の図面)第1図に示されているとおり、トラブル表示部は相接した同一場所に存在する一個の表示器の二つの部分を分かち合つていること、すなわち二つの表示灯が一体として設置されていることは明らかであり、各表示灯がそれぞれ硬貨、紙幣のトラブルを表示するようになつている。イ号物件は、トラブル表示部を、本件発明出願(昭和五一年六月三〇日)当時周知かつ採用容易な手段であつた七本のセグメントからなる「日文字」状表示器たるセグメント表示部8とし、硬貨、紙幣それぞれのトラブルによつて点灯するセグメントの組合せを変えているにすぎず、硬貨のトラブル情報の表示部として使用されるセグメントと、紙幣のトラブル情報の表示部として使用されるセグメントとが別異の表示部であることはいうまでもないから、本件発明の構成要件(四)の「トラブル表示部を別々に設けた」との要件を充足する。

このように、補正明細書の実施例もイ号物件も、ともに硬貨と紙幣のトラブル発生を別々の表示により外部に知らせる役割を果し、これによつて発生原因の解明と、修復の迅速化という効果をもたらしている点で何等の差異はない。

第三  争点に対する判断

一  要旨変更

1  「検定部」の鑑別機能について

(一) 原明細書の記載(乙一〇)

(1) 発明の名称は「自動交換装置」である。

(2) 特許請求の範囲の記載は次のとおりである。

「所定の商品交換媒介物の検定信号より商品交換媒介物を鑑別する鑑別機と、この鑑別機を共用しそれぞれ投入された所定の商品交換媒介物を検定して検定信号を前記鑑別機に伝送すると共にこの鑑別機から伝送されてきた鑑別結果に応じて商品交換媒介物と商品との少くとも一方を送出する複数の自動交換機とを具備することを特徴とする自動交換装置。」(原明細書1頁3~10行)

(3) 発明の詳細な説明欄における「検定部」及び「鑑別機」に関する記載は、次のとおりである。

(ア) 「従来、パチンコ遊技場では一〇〇円硬貨をパチンコ玉と交換する硬貨用自動玉貸機と、五〇〇円、一〇〇〇円の紙幣を一〇〇円分、又は二〇〇円分等のパチンコ玉と交換すると同時につり銭を出す紙幣用自動玉貸機とを設置している。硬貨用自動玉貸機は一〇〇円硬貨の鑑別を簡単な装置で行うことができるので、コンパクトな形状となつており、したがつてパチンコ台の各間隙等に設置することができるため、店内に多数配置している。しかし、紙幣用自動玉貸機は紙幣の鑑別に高価で大型の紙幣鑑別機を要するので、高価で大型となり、そのため店内に一~二台程度しか設置できないのが現状である。」(原明細書1頁16行~2頁9行)

(イ) 「鑑別機を自動交換機とは別に設けて複数の自動交換機で鑑別機を共用することにより安価で自動交換機の小型化を図ることができる構成とした」(同3頁4~7行)

(ウ) 「各自動玉貸機31、32・・・はそれぞれ紙幣用自動玉貸機における鑑別機を除いた部分と硬貨用自動玉貸機とを組合わせたものであり、鑑別機4と信号線51、52・・・、61、62・・・、71、72・・・で接続されている。」(同3頁12~16行)

(エ) 「この取込み用ローラ251、261・・・、で取込んだ紙幣を検定する検定部271」(同4頁9~11行)

(オ) 「鑑別機4は複数台の自動玉貸機31、32・・・からの検定信号を時分割方式等により一台で鑑別してその結果を返送するものであつて管理室等に設置され、」(同5頁2~5行)

(カ) 「自動玉貸機31は従来の硬貨用自動玉貸機と同様にその硬貨を鑑別して本物であれば・・・」(同5頁13~15行)

(キ) 「その紙幣は自動玉貸機31において取込用ローラ251、261により内部に取込まれて検定部271で検定され、すなわち紙幣に関するデータが取出される。この検定部271からのアナログ又はデイジタルの検定信号は信号線51によつて鑑別機4の記憶部34に伝送されて一時的に記憶部34に記憶される。記憶部34はこのようにして各自動玉貸機31、32の検定部271・・・から伝送されてきた検定信号を一時的に記憶するが、この記憶部34に記憶された検定信号は制御部36の働きによつて順次取出されて鑑別部35で鑑別され、」(同6頁1~12行)

(ク) 「鑑別機を自動交換機と別に設けたので、自動交換機の小型化を図ることができ、パチンコ遊技場等で小さなスペースに多数の自動交換機を設置することが可能となり、実用上極めて有効である。しかも複数の自動交換機で一台の鑑別機を共用するので、コストの低減を図ることができる。」(同8頁10~16行)

(4) そして、添付の原図面には、自動交換装置(自動玉貸機及び乗車券自動販売機)と鑑別機が別々に設けられた図面(第1.2、4、5図)だけが記載されている。

(二) 原明細書の記載の解釈

右(一)に示した原明細書及び原図面の記載に照らすと、同書に記載された発明は、自動玉貸機を含む自動交換装置に関するものであつて、そこに示されている同装置の鑑別機は、同装置の外にあり、複数の同装置に共通のものである。そして、同装置内の検定部は、投入された紙幣のデータを認識して鑑別機にそのデータを送るものであり、それ自体としては、紙幣に関するデータを収集する機能のみを有するものであつて、その真贋を判別する鑑別機能を有するものではなかつたことは明らかである。また、原明細書に記載されている同装置全体は、紙幣に関するデータを収集する機能及び硬貨の真贋を判別する鑑別機能を有するものとして構成されていたことも明らかである。

(三) 補正明細書の記載(甲二、乙一一)

(1) 発明の名称は「遊技場における薄形玉貸機」である。

(2) 特許請求の範囲の記載は、前示のとおりである。

(3) 発明の詳細な説明欄における「検定部」に関する記載は、次のとおりである。

(ア) 「本発明は、・・・五〇〇円紙幣および一〇〇〇円紙幣等の紙幣と玉を交換できる玉貸機を提供することを目的とし・・・かかる目的を達成するため、・・・縦状の紙幣と硬貨の挿入口を設け、該両挿入口に連通する取り込み通路を別々に設け該両取り込み通路の適宜の箇所に少くとも紙幣と硬貨の正偽等を判別する検定部を設け、」(公報2欄2~12行)

(イ) 「該両通路61、62・・・、71、72・・・、の適宜の箇所に配置された貨幣をチエツクするための検定部81、82・・・、91、92・・・、」(同3欄4~6行)

(ウ) 「自動玉貸機21は従来の硬貨用自動玉貸機と同様にその硬貨を検定して本物であれば一〇〇円分のパチンコ玉を取出口151に送出して遊技客に出す。又自動玉貸機21はその硬貨が偽物であるか、又は一〇〇円以外の硬貨であれば硬貨返却口171へその硬貨を送出して遊技客に返却する。又遊技客が一〇〇〇円札等紙幣を自動玉貸機21の紙幣挿入口51より投入すると、その紙幣は自動玉貸機21において取り込みローラ131により内部に取り込まれて検定部9で検定され、本物であればそのまま取り込み通路内に取り込まれ、そうでなければ遊技客に返却される。そして本物の場合は玉貸額選択釦121を点灯させる。」(同3欄31~43行)

(4) そして、添付図面には、薄形玉貸機の内部に硬貨検定部と紙幣検定部を設けた図面(第3図)だけが記載されている。

(四) 補正明細書の記載の解釈

右(三)に示した補正明細書の記載に照らすと、本件補正後の発明(本件発明)は、「遊技場における薄形玉貸機」に関するものであつて、本件発明にいう「検定部」は、紙幣用検定部と硬貨用検定部とがあり、それぞれ紙幣、硬貨に関するデータを収集する機能を有するのみならず、その真贋を判別する鑑別機能を有するものであると解せられる。また、補正明細書に記載されている自動玉貸機は、その内部に紙幣及び硬貨何れの真贋をも判別する鑑別機能を具備するものとして構成されているものと解せられる。

(五) 本件補正の評価

そうすると、本件補正は、鑑別機能を持たなかつた「検定部」に鑑別機能を持たせた点において、原明細書(及び原図面)に記載された事項の範囲を越えるものというべきである。

原告は、補正明細書には「検定部」が紙幣と硬貨の両取り込み通路に設置されると記載されていること、及び鑑別部はそもそも取り込み通路に設置されておらず、貨幣と接触しないから、トラブルとは無縁であることを根拠として、同書に記載されている紙幣の検定部はもつぱら真贋判断のための紙幣の情報(データ)を収集する部門であり、鑑別機能を有するものではないと主張するが、同書には検定部と付別個に設けられた「鑑別部」の存在をうかがわせる記載は全く存在しないから、原告の右主張は採用し難い。

2  「トラブル表示部」について

(一) 原明細書の記載(乙一〇)

原明細書の特許請求の範囲には「トラブル表示部」に関する記載は全くなく、発明の詳細な説明及び原図面には、次の記載がある。

(1) 「トラブル表示釦91」(原明細書3頁18行。なお、トラブル表示釦91の正面図が原図面第3図に記載されており、トラブル表示釦91が自動玉貸機の正面に設けられていること、及び右トラブル表示釦は長方形の区画でかつその中央部での線引きにより右区画が二つに分割されているものであることが図示されている。)

(2) 「照明用ランプ付玉貸額指定釦121~211、」(同3頁19~20行)

(3) 「前述の紙幣37が本物の五〇〇円札又は一〇〇〇円札であればその紙幣37を金庫241に送出し、そうでなければその紙幣37を紙幣返却口231に送出する。又制御部321は鑑別機4から信号線71によつて返送されてきた鑑別信号により、玉貸額指定釦121~211を前述の紙幣37が本物の五〇〇円札又は一〇〇〇円札であれば点灯させるが、そうでなければ点灯させない。」(同6頁16行~7頁3行)

(4) 「そこで、遊技客が玉貸額指定釦121~211の点灯により例えば二〇〇円の玉貸額指定釦131を押すと、制御部321の働きによつて玉送出部301が二〇〇円分のパチンコ玉29をパチンコ玉取出口221に送出すると同時につり銭送出部311が紙幣37と指定額との差額の硬貨38を貨幣返却口231に送出する。」(同7頁3~9行)

(5) 「なお、紙幣37が偽札である場合にはブザー、表示灯等の適当な警報装置を働かせるようにすることもできる。」(同7頁9~11行)

(二) 原明細書記載の解釈

右(一)(1)の「トラブル表示釦」は、本件原明細書中に何等の説明のない用語であるから、そこにいう「トラブル」の内容及び発生箇所、並びに技術用語としての「表示釦」の意味について検討する必要がある。

そこで、まず、右(一)(1)の「トラブル」の内容及び発生箇所について検討するに、右「トラブル」には、玉貸機で発生したトラブルのみならず、パチンコ台で発生したトラブルも含まれる可能性があると一応考えられるが、「トラブル表示釦」が玉貸機に設置されていることを考慮すると、玉貸機で発生したトラブルだけに限定されるものと解釈するのが相当である。そして、これについては、貨幣の真贋、貨幣の挿入及び搬送、パチンコ玉、釣銭、玉貸機の機構及び電気系統のトラブル等種々のトラブルが考えられるが、原明細書の記載中に右「トラブル」の内容及び発生箇所については何等の説明もない。

次に、右(一)(1)の「表示釦」の意味について検討する。原図面第3図に示されている「トラブル表示釦91」が自動玉貸機の正面(前面)に設けられていることからすると、これが突起状のものでないとしても、人が指で押したり触れたりする等の操作を加えることを予定した部材であることが十分に考えられること、及び原明細中には他に右(一)(2)ないし(4)の「玉貸額指定釦」として同じ「釦」なる用語が使用されているところ、これは人が指で「押す」ことを予定した部材であると明記されている以上、原明細書全体の用語の意味の統一という観点(特許法施行規則二四条に定められた様式第一六の8本文参照)からすると、「トラブル表示釦」の「釦」も人が指で押したり触れたりする等の操作を加えることを予定した部材(押圧ボタン)であると解釈することができる。もつとも、この点に関し、原明細書中の「玉貸指定釦121~211を前述の紙幣37が本物の五〇〇円札又は一〇〇〇円札であれば点灯させるが、そうでなければ点灯させない。」(同6頁末行~7頁3行)との記載に照らすと、「玉貸額指定釦」は紙幣が真(本物)であることを自動的に表示(点灯)する機能をも併有する部材と考えられなくもない。しかしながら、右(一)(2)、(3)の記載を子細に検討すると、「玉貸額指定釦」とは略称であつて正式名称は「照明用ランプ付玉貸額指定釦」となつていること、及び紙幣が真(本物)であることを表示する「表示部」は「玉貸額指定釦」に付けられた「照明用ランプ」であると明確に読み取れるから、「玉貸額指定釦」の「釦」が「表示部」としての機能も併有する部材を意味する用語であると考えるには無理がある。

また、右(一)(5)の「表示灯」が偽札の表示をする部材であることは、その記載内容から明らかであり、これと「トラブル表示釦」とは、その使用された用語の違いからも、異なる技術内容を表現したものであると考えるのが相当である。なぜならば、同一の技術内容を表現する時には同一用語を用いるのが明細書作成のルール(特許法施行規則二四条に定められた様式第一六の8本文参照)であり、しかも、右(一)(5)の「・・・表示灯・・・を・・・働かせるようにすることもできる。」は、「実際には働かせるようになつていないが、もし必要ならば働かせるようにすることもできる。」ということを意味しており、これからすると、実際に働いている「トラブル表示釦」は、「(偽札)表示灯」とは異なる部材である(偽札であることを表示するものではない)と考えざるを得ないからである。

以上の検討結果によれば、結局、右(一)(1)の「トラブル表示釦」は、「トラブルが発生したことを遊技客が店員に告知するための押圧釦(ボタン)」ないし「同釦が押圧されたことを点灯等により表示する照明用ランプ付押圧釦」と解すべきである。

(三) 補正明細書の記載(甲二、乙一一)

補正明細書においては、新たに特許請求の範囲中に、「前記取り込み通路および検定部等でトラブルが発生したときに、外部に表示するトラブル表示部を別々に設けたことを特徴とする」との記載(本件発明の構成要件(四))が追加され、「トラブル発生箇所及び表示部」に関し次のとおりの記載がある。

(1) 「前記両取り込み通路および検定部等でトラブルが発生したときに、外部に表示するトラブル表示部を別々に設けたことを特徴とするパチンコ遊技場のパチンコ台間に配設する薄形玉貸機」(公報2欄13~16行)

(2) 「硬貨と紙幣の取り込みおよび検定中にトラブルが発生した際に外部に表示するトラブル表示部10、11が、硬貨用101、102・・・と紙幣用111、112・・・に分けて設けられている。」(同3欄6~10行)

(3) 「前記した硬貨取り込み返却関係部門でトラブルが応じ(生じの誤記)たときは、トラブル表示部10が点灯して硬貨部門においてトラブルが発生したことを外部に知らせる。又紙幣取り込み返却関係部門でトラブルが発生したときは、トラブル表示部11が点灯して硬貨部門においてトラブルが発生したことを外部に知らせる。」(同4欄6~12行)

(4) 「このトラブル表示については、更に細かく、例えば硬貨部門及び紙幣部門の特定の箇所においてトラブルが発生したことを表示するようにしてもよい。」(同4欄12~15行)

(5) 「硬貨と紙幣用のトラブル表示部を設けたので、トラブル発生原因の解明が早くつき、トラブル修復を迅速に行うことができる効果を有する。」(同4欄24~27行)

(四) 補正明細書の記載の解釈

右(三)に示した補正明細書の特許請求の範囲中の「トラブル表示部」に関する記載は、トラブル発生箇所を「両取り込み通路および検定部等で」と限定し、トラブル表示部を「別々に設けた」と限定している。そして、右(三)摘示の各記載を総合すると、少なくとも、本件発明の「トラブル」とは、玉貸機やパチンコ台の機械的作動に関するトラブルやパチンコ玉のトラブル等ではなく、紙幣と硬貨に関するトラブルであると解釈するのが相当である。もつとも、右「トラブル」が紙幣や硬貨が偽物であることのトラブルも含むか否かは何等の記載もないが、右(三)(5)の記載及び「又自動玉貸機21はその硬貨が偽物であるか、又は一〇〇円以外の硬貨であれば硬貨返却口171へその硬貨を送出して遊技客に返却する。又遊技客が一〇〇〇円札等紙幣を自動玉貸機21の紙幣挿入口51より投入すると、その紙幣は自動玉貸機21において取り込みローラ131により内部に取り込まれて検定部9で検定され、本物であればそのまま取り込み通路内に取り込まれ、そうでなければ遊技客に返却される。」(同3欄34~42行)との記載並びに弁論の全趣旨を併せ考えると、本件発明の「トラブル」には紙幣や硬貨が偽物であることは含まれないものと解するのが相当である。

また、右(三)(1)の「別々に設けた」とは、右(三)(2)、(3)及び(5)から明らかなように、「硬貨用表示部と紙幣用表示部とを別々に設けた」、すなわち、硬貨系統と紙幣系統とで発生したそれぞれのトラブルについてそれらを表示する部材を別個に設けたとの意味と解すべきである。

(五) 本件補正の評価

以上の諸事実を総合して考えると、原明細書には、紙幣が偽物であつた場合これを自動的に表示する(偽札)表示灯に関する記載と、トラブルの発生を遊技客が釦を押圧することによりこれを告知する表示部に関する記載しかなかつたのにもかかわらず、本件補正は、原明細書に何等の記載もなかつた、紙幣と硬貨の各取り込み通路および検定部等でトラブル(主として貨幣詰まりのトラブル。貨幣が偽物である場合は含まれない。)が発生した場合これを自動的に示す各別の「トラブル表示部」を、補正明細書に新たに記載したものであつて、本件発明の構成要件(四)は原明細書(及び原図面)に記載された事項の範囲を越えるものというべきである。

3  出願日繰下げ

以上によれば、本件補正は、鑑別機能を持たなかつた「検定部」に鑑別機能を持たせたこと、及び原明細書になかつた「トラブル表示部」を新たに設けたことの二点において、特許法四〇条の要旨変更に該当することになり、本件発明の出願日は、補正明細書の提出日である昭和六〇年一一月一八日とみなされることになる。

二  本件発明の技術的範囲

しかるに、原告は、昭和六〇年七月から、現在の原告製品である「キングサンドイツチⅢ」を製造し、遅くとも同年九月にはこれを市場に出していたこと、右原告製品の技術的構成は、本件発明の構成要件を全て充足するものであつたことは、前示のとおりである。

そうすると、本件発明は、出願日とみなされる補正明細書提出日(同年一一月一八日)において、既に市販(公然実施)されていた右薄形玉貸機(公知技術)とその技術的構成が同一のものであることになり、本件特許は明らかな無効原因(特許法二九条一項一号又は二号、一二三条一項一号)を有することになる。本件訴訟においては、このような無効原因を有する本件特許権でも一応有効に存在するものとして取り扱わなければならないが、本件特許権の保護と競業者たる被告の利益との調和を図るためには、その技術的範囲は、補正明細書に記載された実施例(公報の図面)と一致するものに限られると解するのが相当である。

三  実施例とイ号物件との対比

そこで、公報に示されている実施例とイ号物件を対比すると、両者は、少なくとも、トラブル表示部の個数及びその表示態様の違いを含む左記の諸点において異なることは明らかである。

1  釣銭切れ表示ランプの有無

実施例には、釣銭切れ表示ランプはないが、イ号物件には、釣銭切れ表示ランプ3がある。

2  使用できる貨幣の種類

紙幣については、実施例では、五〇〇円と一〇〇〇円とが使用できるが、イ号物件では、一〇〇〇円紙幣しか使用できない。硬貨については、実施例では、一〇〇円しか使用できないが、イ号物件では、一〇〇円と五〇〇円とが使用できる。

3  玉貸(額)選択釦の個数

実施例には、玉貸額選択釦12が五ないし六個あるが、イ号物件には玉貸選択釦7が三個しかない。

4  両替ボタン(装置)の有無

実施例には、両替ボタン(装置)はないが、イ号物件には、両替ボタン(装置)26がある。

5  トラブル表示部の個数

実施例では、別々のトラブル表示部(二個の部材)として硬貨用トラブル表示灯10と紙幣用トラブル表示灯11があるが、イ号物件では、一個のセグメント表示部8を預り金額の残高表示とトラブル表示とに兼用しているにすぎない。

6  トラブル表示部の表示態様

実施例では、トラブル発生と同時にトラブル表示部たる表示灯10または11が点灯して、発生したトラブルの内容(種類、原因)が外部に即時表示されるが、イ号物件では、三点ランプ2の点滅または消灯によつてトラブルの発生を知つた店員等がトラブル箇所確認スイツチ25を押してはじめて、それまで装置内に保持されていたトラブルの内容(種類、原因)が、セグメント表示部8によつて外部に表示されるにすぎない。

7  預り金額の残高表示機能を有する部材の有無

実施例には、右機能を有する部材はないが、イ号物件には、右機能を有するセグメント表示部8がある。

四  結論

以上によれば、イ号物件は本件発明の技術的範囲に属さないから、本件特許権を侵害するものではない。

(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 長井浩一 裁判官森崎英二は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 庵前重和)

(別紙)

物件目録

左記図面並びに構成の説明に示される遊技場における薄形玉貸機

一 図面の説明

第1図 薄形玉貸機をパチンコ台間に設置した状態の一例を示す正面図

第2図 薄形玉貸機の斜視図

第3図 薄形玉貸機の内部を示す図(但し、回路配線は概念的に示してある。)

第4図 千円札識別機(紙幣の取り込み通路及びその近傍)の断面概念図

第5図 セグメント表示部の拡大正面図である。

二 構成の説明

図面に示す遊技場における薄型玉貸機は、次の構成を具備するものである。

1 複数台のパチンコ台を並べて配置した遊技場におけるパチンコ台間に配置される金銭の投入に応じて貸玉を放出する薄形玉貸機1において、

2 縦状の紙幣(一〇〇〇円札)の挿入口4と、縦状の硬貨(一〇〇円硬貨・五〇〇円硬貨)の挿入口5を設け、

3 該両挿入口4・5に連通する取り込み通路を別々に設け、

4 該両取り込み通路の途中に紙幣と硬貨の検定部を設け、

5 前記両取り込み通路および両検定部等の何れかでトラブル(紙幣または硬貨の詰り等)が発生した時点で、点滅または消灯をもつて、機械内部でのトラブルの発生だけを外部に表示する三点ランプ2(点灯中・貸出表示)と、

6 トラブル発生後に側面下端の最奥部に設けられたトラブル箇所確認スイツチ25が押されたときに、七本一組の日の字形に配置されたセグメント(〈1〉~〈7〉)のうち、特定のセグメントを点灯させて、点灯する特定のセグメントの組合せ形状によつて表示される「1~8・c・d・E」の数字または文字をもつて各種トラブルの内容を表示するセグメント表示部8を設け、

7 紙幣または硬貨が投入され、貸玉金額または両替が選択されたとき、預り金額の残高(貸玉または金銭の払出し後の残数)を、七本一組の日の字形に配置された前記セグメント表示部8のセグメント(〈1〉~〈7〉)のうち、点灯する特定のセグメントの組合せ形状によつて表示される「O・A・9~1・0」の文字または数字をもつて減算的にカウント表示するべく構成してあること

8 を特徴とする遊技場における薄形玉貸機。

なお、三点ランプ2の点滅または消灯によるトラブル表示の内容、及びセグメント表示部8の「1~8・c・d・E」による紙幣、硬貨、貸玉の詰り、センサーの故障等のトラブル内容の表示は、第2図中の表をもつて示すとおりである。

以上

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

(別紙) 原明細書

明細書

発明の名称 自動交換装置

特許請求の範囲

所定の商品交換媒介物の検定信号より商品交換媒介物を鑑別する鑑別機と、この鑑別機を共用しそれぞれ投入された所定の商品交換媒介物を検定して検定信号を前記鑑別機に伝送すると共にこの鑑別機から伝送されてきた鑑別結果に応じて商品交換媒介物と商品との少くとも一方を送出する複数の自動交換機とを具備することを特徴とする自動交換装置。

発明の詳細な説明

本発明は自動販売機、両替機等としで紙弊、硬貨、カード等の商品交換媒介物と商品交換媒介物及び商品の少くとも一方との交換に用いられる自動交換装置に関する。

従来、パチンコ遊技場では100円硬貨をパチンコ玉と交換する硬貨用自動玉貸機と、500円、1000円の紙弊を100円分、又は200円分等のパチンコ玉と交換すると同時につり銭を出す紙弊用自動玉貸機とを設置している。硬貨用自動玉貸機は100円硬貨の鑑別を簡単な装置で行うことができるので、コンパクトな形状となっており、したがってパチンコ台の各間隙等に設置することができるため、店内に多数配置している。しかし、紙弊用自動玉貸機は紙弊の鑑別に高価で大型の紙弊鑑別機を要するので、高価で大型となり、そのため店内に1~2台程度しか設置できないのが現状である。このことから遊技客は貨弊をパチンコ玉と交換する際に100円硬貨がなくなった時には一々紙弊用自動玉貸機の置いてあるところまで行かなければならないので、遊技客にとって射幸心を損なうばかりでなく、パチンコ遊技場の経営者にとっても売上が減る等の種々の欠点があった。また、紙弊用自動玉貸機ばかりでなく、駅の両替機、乗車券自動販売機、無人食堂の飲食品自動販売機、等の自動交換機でも紙弊を扱うものは同様に高価で大型となるために設置台数が制限される。またこれらの自動交換機において紙弊の代りに一定の形式のカード等よりなる商品交換媒介物を扱うものも提案されているが、このようなものにおいても同様な欠点を有することになる。

本発明は斯る欠点を除去する為に発明されたもので、鑑別機を自動交換機とは別に設けて複数の自動交換機で鑑別機を共用することにより安価で自動交取機の小型化を図ることができる構成とした自動交換装置を提供することを目的とする。

以下図面を参照しながら本発明の一実施例について説明する。

第1図~第4図に示すようにパチンコ島1においてパチンコ台21、22……の相互間に自動玉貸機31、32……が配置される。各自動玉貸機31、32……はそれぞれ紙弊用自動玉貸機における鑑別機を除いた部分と硬貨用自動玉貸機とを組合せたものであり、鑑別機4と信号線51、52……、61、62……、71、72……で接続されている。各自動玉貸機31、32……には番号表示部81……に番号が付してあると共にトラブル表示釦91……、100円硬貨投入口101……、紙弊投入口111……、照明用ランプ付玉貸額指定釦121~211、……、パチンコ玉取出口221……、貨弊返却口231……、金庫241……が設けられている。紙弊投入口111……は例えば1000円札及び500円札を投入するものであるが、10000円札を投入できる構成としてもよい。玉貸指定釦121~211……は例えば100円から1000円まで100円単位で選択して指定できるように設けられている。又各自動玉貸機31、32……には紙弊投入口111……から投入された紙弊を取込む取込み用ローラ251、261、……、この取込み用ローラ251、261、……、で取込んだ紙弊を検定する検定部271……、取込み用ローラ251、261……で取込んだ紙弊をその正偽に応じて金庫241……又は紙弊投入口111……に送出する札戻し機構部281……、玉貸額指定釦121~211……による指定額に応じてパチンコ玉29をパチンコ玉取出口221……に送出する玉送出部301……、つり銭を貨弊返却口231……に送出するつり銭送出部311……、このつり銭送出部311……と玉送出部301……とを制御する制御部321……が設けられ、かつ紙弊の紙弊投入口111……への投入を検知して各部に検知信号を送る投入検知スイフチ331……が設けられている。鑑別機4は複数台の自動玉貸機31、32……からの検定信号を時分割方式等により1台で鑑別してその結果を返送するものであって管理室等に設置され、各自動玉貸機31、32……の検定部271……からの検定信号を一時的に記憶する記憶部34、検定信号より鑑別を行う鑑別部35、この鑑別部35及び記憶部34を制御し鑑別結果を自動玉貸機31、32……に返送する制御部36を有している。

このように構成された自動玉貸装置において、今、遊技客が100円の硬貨を自動玉貸機31に硬貨投入口101より投入したとすると、自動玉貸機31は従来の硬貨用自動玉貸機と同様にその硬貨を鑑別して本物であれば100円分のパチンコ玉をパチンコ玉取出口221に送出して遊技客に出す。又自動玉貸機31はその硬貨が偽物であるか、又は100円以外の硬貨であれは貨弊返却口231へその硬貨を送出して遊技客に返却する。又遊技客が1000円札又は500円札37を自動玉貸機31に紙弊投入口111より投入すると、その紙弊は自動玉貸機31において取込用ローラ251、261により内部に取込まれて検定部271で検定され、すなわち紙弊に関するデータが取り出される。この検定部271からのアナログ又はディジタルの検定信号は信号線51によって鑑別機4の記憶部34に伝送されて一時的に記憶部34に記憶される。記憶部34はこのようにして各自動玉貸機31、32……の検定部271……から伝送されてきた検定信号を一時的に記憶するが、この記憶部34に記憶された検定信号は制御部36の働きによって順次取出されて鑑別部35で鑑別され、その結果が鑑別信号として信号線61、……、71……によって各自動玉貸機31、……に返送される。自動玉貸機31において札戻し機構部281は信号線61によって鑑別機4から返送されてきた鑑別信号により、前述の紙弊37が本物の500円札又は1000円札であればその紙弊37を金庫241に送出し、そうでなければその紙弊37を紙弊返却口231に送出する。又制御部321は鑑別機4から信号線71によって返送されてきた鑑別信号により、玉貸額指定釦121~211を前述の紙弊37が本物の500円札又は1000円札であれば点灯させるが、そうでなければ点灯させない。そこで、遊技客が玉貸額指定釦121~211の点灯により例えば200円の玉貸額指定釦131を押すと、制御部321の働きによって玉送出部301が200円分のパチンコ玉29をパチンコ玉取出口221に送出すると同時につり銭送出部311が紙弊37と指定額との差額の硬貨38を貨弊返却口231に送出する。なお、紙弊37が偽札である場合にはブザー、表示灯等の適当な警報装置を働かせるようにすることもできる。

本発明の他の実施例では第5図に示すように、複数の乗車券自動販売機391、392……において紙弊の鑑別を行う鑑別機40が別に設けられ、この鑑別機40は信号線411、412……によって各乗車券自動販売機391、392……と接続されて各乗車券自動販売機391、392……の紙弊鑑別に共用される。乗車券自動販売機391は金額指定釦421、422……、紙弊投入口43、硬貨投入口44、乗車券及び貨弊取出口45が従来装置と同様に設けられており、他の乗車券自動販売機392、393……も同様である。

なお、本発明は自動玉貸機、乗車券自動販売機以外の両替機、飲食品自動販売機、自動メタル貸機等の自動交換機にも同様に適用することができ、又紙弊以外の一定の形式のカード等よりなる商品交換媒介物を扱う自動交換機にも同様に適用することができる。

以上のように本発明による自動交換装置によれば紙弊等の所定の商品交換媒介物の鑑別を行う鑑別機を自動交換機と別に設けたので、自動交換機の小型化を図ることができ、パチンコ遊技場等で小さな的スペースに多数の自動交換機を設置することが可能となり、実用上極めて有効である。しかも複数の自動交換機で1台の鑑別機を共用するので、コストの低減を図ることができる。

図面の簡単な説明

第1図は本発明の一実施例を示すブロック図、第2図は同実施例の平面図、第3図は同実施例における1台の自動玉貸機を示す正面図、第4図は上記実施例の一部を示すブロック図、第5図は本発明の他の実施例を示す斜視図である。

31、32、33…自動玉貸機、4…鑑別機、391、392、393…乗車券自動販売機、40…鑑別機。

第1図

〈省略〉

第2図

〈省略〉

第3図

〈省略〉

第4図

〈省略〉

第5図

〈省略〉

〈19〉日本国特許庁(JP) 〈11〉特許出願公告

〈12〉特許公報(B2) 昭61-41036

〈51〉Int.cl.4G 07 D 5/00 A 63 F 7/22 G 07 D 7/00 識別記号 庁内整理番号 6727-3E 6777-2C 6727-3E 〈24〉〈44〉公告 昭和61年(1986)9月12日

発明の数 1

〈54〉発明の名称 遊技場における薄形玉貸桟

審判 昭60-22168 〈21〉特願 昭51-77358 〈65〉公開 昭53-3399

〈22〉出願 昭51(1976)6月30日 〈43〉昭53(1978)1月13日

〈72〉発明者 武本宗一 東京都台東区池之端4丁目10番2号

〈71〉出願人 株式会社エース電研 東京都台東区東上野3-20-2

〈74〉代理人 弁理士 柏原健次

審判の合議体 審判長 林鉐三 審判官 佐藤久容 審判官 植村昭三

〈56〉参考文献 特開 昭51-40994(Jp、A)

〈57〉特許請求の範囲

1 複数台のパチンコ台を並べて配置した遊技場におけるパチンコ台間に配置される金銭の投入に応じて貸玉を放出する薄形玉貸機において、

縦状の紙幣と硬貨の挿入口を設け、該両挿入口に連通する取り込み通路を別々に設け、

該両取り込み通路の適宜の箇所に少くとも紙幣と硬貨の検定部を設け、

前記両取り込み通路および検定部等でトラブルが発生したときに、外部に表示するトラブル表示部を別々に設けたことを特徴とする遊技場における薄形玉貸機。

発明の詳細な説明

(産業上の利用分野)

本発明はパチンコ玉(以下玉という)と100円硬貨および500円・1000円紙幣(以下両金銭を併せて貨幣という)の交換を可能とした薄形玉貸機に関するものである。

(従来の技術)

従来パチンコ遊技場においては、100円硬貨と玉を交換する100円貨専用薄形玉貸機がパチンコ台間に配置されていた。ところがこの玉貸機は100円硬貨専用であるために、遊技客は100円貨がなくなると、その都度紙幣と100円貨を交換しに交換機の設置場所に歩いて行かなければならないので遊技客の射幸心を損うことがはなはだしく、またパチンコ遊技場の経営者にとつても売上が減る等の問題点があつた。

(発明の目的)

本発明は、このような従来の問題点に注目して発明されたもので、玉貸機の幅が従来の100貨専用玉貸機と略々同じくらい薄くし、そして500円紙幣および1000円紙幣等の紙幣と玉を交換できる玉貸機を提供することを目的としている。

(発明の構成)

かかる目的を達成するため、本発明においては、縦状の紙幣と硬貨の挿入口を設け、該両挿入口に連通する取り込み通路を別々に設け、

該両取り込み通路の適宜の箇所に少くとも紙幣と硬貨の正偽等を判別する検定部を設け、

前記両取り込み通路および検定部等でトランブルが発生したときに、外部に表示するトラブル表示部を別々に設けたことを特徴とするパチンコ遊技場のパチンコ台間に配設する薄形玉貸機としたものである。

(実施例)

以下、図面に基づき本発明の一実施例を説明する。

第1図および第3図は、本発明の一実施例を示している。第2図において複数のパチンコ台1より構成されるパチンコ島Aにおいて、パチンコ台11、11……の相互間に自動玉貸機21、22……が配設される。各玉貸機21、22…は台1・3図に示すように、それぞれに、番号表示部31、32…、100円硬貨を縦に挿入する挿入口41、42…、500円、1000円および10000円札等の紙幣を挿入する挿入口51、52…、そして該両挿入口41、42…、51、52…、に連通する取り込み搬送通路61、62…、71、72…、該両通路61、62…、71、72…、の適宜の箇所に配置された貨幣をチエツクするための検定部81、82…、91、92…、硬貨と紙幣の取り込みおよび検定中にトラブルが発生した際に外部に表示するトラブル表示部10、11が、硬貨用101、102…と紙幣用111、112…に分けて設けられている。

次に照明用ランプ付玉貸額選択釦121、122…が100円から必要とする金額まで100円単位もしくは1000円単位で選択して指定できるように設けられている。また各玉貸機21、22…には紙幣を取り込む取り込みローラ131、132…および取り込んだ紙幣の検定に応じて挿入口に戻す戻し機構141…、玉貸額選択釦121、122…による指定額に応じたパチンコ玉を取出口151、152…に送出する玉送出部161、162…つり銭等硬貨を硬貨返却口171、172…に送出するつり銭送出部181、182…と玉送出部161、162…とを制御する制御部191…が設けられ、かつ紙幣の挿入口51、52…への投入を検知して各部に検知信号を送る投入検知スイツチ201、202…が設けられている。なお、薄形玉貸機内部においてつり銭硬貨は縦状態にして搬送返却されるように返却通路が形成されている。

このように形成された薄形自動玉貸機において、今、遊技客が100円硬貨を挿入口31に投入すると、自動玉貸機21は従来の硬貨用自動玉貸機と同様にその硬貨を検定して本物であれば100円分のパチンコ玉を取出口151に送出して遊技客に出す。又自動玉貸機21はその硬貨が偽物であるか、又は100円以外の硬貨であれば硬貨返却口171へその硬貨を送出して遊技客に返却する。又遊技客が1000円札等紙幣を自動玉貸機21の紙幣挿入口51より投入すると、その紙幣は自動玉貸機21において取り込みローラ131により内部に取り込まれて検定部9で検定され、本物であればそのまま取り込み通路内に取り込まれ、そうでなければ遊技客に返却される。そして本物の場合は玉貸額選択釦121を点灯させる。そこで、遊技客が玉貸額選択釦121の望む釦、例えば200円の選定釦121を押すと、200円分のパチンコ玉をパチンコ玉取出口15に送出すると同時につり銭送出部181がその差額である800円を硬貨返却口171に返却する。

なお、前記した硬貨取り込み返却関係部門でトラブルが応じたときは、トラブル表示部10が点灯して硬貨部門においてトラブルが発生したことを外部に知らせる。又紙幣取り込み返却関係部門でトラブルが発生したときは、トラブル表示部11が点灯して紙幣部門においてトラブルが発生したことを外部に知らせる。このトラブル表示については、更に細かく、例えば硬貨部門及び紙幣部門の特定の箇所においてトラブルが発生したことを表示するようにしてもよい。

更に、前記した硬貨の返却については縦に返却するようにすることが、自動玉貸機をより薄く製造することができる。

(発明の効果)

本発明に係る薄形玉貸機によれば、硬貨と紙幣の挿入口を設けたので、遊技客の射幸心をそこなうことなく遊技をそのまま継続でき、巾の広い紙幣を縦に挿入するようにしたので、玉貸機を薄形にでき、更に硬貨と紙幣用のトラブル表示部を設けたので、トラブル発生原因の解明が早くつき、トラブル修復を迅速に行うことができる効果を有する。

図面の簡単な説明

第1図~第3図は本発明の一実施例を示しており、第1図は薄形玉貸機の正面図、第2図は薄形玉貸機をパチンコ台間に配設した状態を示す正面図、第3図は薄形玉貸機の縦断側面図、である。

A……パチンコ島、11、12……パチンコ台、21、22……薄形玉貸機、41、42……硬貨挿入口、51、52……紙幣挿入口、61、62……硬貨取り込み通路、71、72……紙幣取り込み通路、81、82……硬貨検定部、91、92……紙幣検定部、101、102……硬貨用トラブル表示灯、111、112……紙幣用トラブル表示灯、121、122……玉貸額選択釦、151、152……パチンコ玉取出口、171、172……硬貨返却口。

第1図

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第2図

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第3図

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特許公報

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